第8回(1999年)二次試験問題解答および注釈
【診断・核医学】 1.〜25.

1.解答e
T1強調横断像で両側基底核に点状の低信号域を多数認め,拡張したモヤモヤ血管が疑われる。MR angiographyでは両側中大脳動脈水平部の描出不良と脳底部異常血管網を認めるが,モヤモヤ病に特徴的所見である。モヤモヤ病は両側性の内頚動脈末端から前および中大脳動脈近位部,すなわちWillis輪の高度狭窄もしくは閉塞と,それに伴う側副血行路として形成される異常血管網を特徴とする疾患である。最終的にはconventional angiographyで診断されるべき疾患であるが,MR angiographyでは両側中大脳水平部の描出不良と脳底部異常血管網が特徴的である。小児あるいは思春期の女性に好発するが,成人にも見られ,臨床的には若年者では痙攣,進行性の間欠性麻痺,失神発作,あるいは知能低下などを来すのに対し,成人例では脳出血やクモ膜下出血で発症することが多い。側副血行路は大脳基底核や視床を栄養する血管,すなわちレンズ核線条体動脈,前脈絡動脈あるいは後交通動脈や後大脳動脈から分岐する穿通動脈間の吻合 (parenchymal anastomosis) を介する,いわゆるモヤモヤ血管網を形成する。進行してWillis輪が閉塞すると大脳深部の側副路は消失し,leptomeningeal anastomosisやtransdural anastomosisを介する末梢性の側副路が形成されてくる。

2.解答d
T2強調横断像で視床の背腹側に辺縁円滑で均質な高信号域を対称性に認め,中脳水道周囲および中脳被蓋にも均質な高信号域を認めるが,mass effectは伴わない。mass effectは伴わず,左右対称性の均質な高信号域から腫瘍性疾患やMS,梗塞などは否定され,脱髄・代謝性疾患が考えられる。胃切除後と歩行失調を伴うことから急性期のウェルニッケ脳症が考えられる。ウェルニッケ脳症は慢性アルコール中毒,胃切除後,妊娠悪阻による頻回な嘔吐,偏食などで見られるチアミン(ビタミンB1)の持続的な欠乏による栄養障害性疾患で,眼筋麻痺,歩行失調,意識障害を3主徴とする。病理学的には脱髄,点状出血,線維性グリオーシスが乳頭体,第三脳室周囲,中脳水道周囲の灰白質に対称性に見られが,MRIのT2強調像はこれらの特徴的な変化を鋭敏に捉える。治療はビタミンB1の投与が奏効する。

3.解答c
左前頭部から頭頂部にかけて,頭蓋穹窿部に拡がる三日月型の血腫が疑われる。血腫は大部分が大脳灰白質と同程度の吸収値をもつが,部分的に低吸収域が混在し,反復性の血腫と考えられる。その輪郭は不明瞭であるが,鋸歯状の灰白質の位置からおおよその血腫の形が推測される。血腫の厚さに比し正中偏位(midline shift)が顕著である。これらの特徴的CT所見から慢性硬膜下血腫と診断される。
硬膜下血腫は脳表から硬膜静脈洞に流入する架橋静脈 (bridging vein) の破綻によって繰り返し出血することにより比較的緩徐に形成され,硬膜外血腫のように骨折を伴うことは少なく,contre-coup injury により受傷部とは反対側に生じたり,両側性を示すことがある。若年者では頭痛,嘔吐,鬱血乳頭などの頭蓋内圧亢進症状で発症するが,高齢者では痴呆,失見当識,記銘力低下などの精神症状や麻痺を示すことが多い。

4.解答e
T1強調正中矢状断像でトルコ鞍から鞍上部にかけて大部分が皮質と比較して等信号を示し,部分的に強い高信号を示す領域を伴う腫瘤が見られる。腫瘤はトルコ鞍を円滑に拡張し,頭側へ盛り上がるように進展し,視交叉を正中尾側から圧迫している。出血を伴う下垂体腺腫と考えられる。下垂体腺腫は腺下垂体から発生する腫瘍で,臨床的にホルモンを産生する機能性腫瘍と産生しない非機能性腫瘍に大別される。腫瘍は一般に均質で,T1強調画像で等ないし軽度低信号,T2強調画像で等ないし軽度高信号を呈するが,出血により内部がT1強調画像で強い高信号を示すことがしばしばある。鞍上部に進展して視交差を圧迫すると両耳側半盲を来す。両耳側半盲を来す疾患としては他に頭蓋咽頭腫,鞍結節髄膜腫,異所性松果体腫,視神経膠腫,前交通動脈動脈瘤,ラトケ嚢胞などがあるが,MRIの信号強度や進展形式から鑑別は可能である。

5.解答e
T1強調横断像および冠状断像で両側小脳橋角部に境界明瞭で均一に造影される腫瘤が認められ,橋は両側性に強く圧迫され,第4脳室は消失する。両側性の聴神経鞘腫が疑われ,神経線維腫症型と考えられる。
神経線維腫症は神経線維腫,カフェオレ斑 cafe au lait spotsと呼ばれる褐色の色素斑,脊椎側弯症などの骨病変,その他にも眼病変,神経腫瘍など多彩な症候がみられる優性遺伝性疾患である。2つの病型があり,古典的なレックリングハウゼン病は神経線維腫症 I 型と呼ばれ,症例あるいは患者の年齢により,見られる症候の程度に差があるが,小児では色素斑のみの症例が多く,神経膠腫を伴うことがある。両側の聴神経に腫瘍が見られる神経線維腫症型には,脊髄,皮膚の神経鞘腫,髄膜腫などを伴うことがある。
           (以上1〜5は大阪府立成人病センター・門田 強会員)
          
6.解答b
骨シンチグラムで右大腿骨と下腿骨に異常集積が認められ,多骨性かつ片側性骨病変の鑑別診断を問う問題である。提示された単純X線像は下腿骨の側面像で,脛骨のほぼ全長に渡って髄腔の不均一な濃度の骨化と皮質骨の波状の菲薄化を認めるほか,脛骨の腹側への湾曲が疑われる。病歴でも与えられた情報であるが,骨シンチグラムでも,右大腿骨の変形が明らかである。以上の所見は,線維性骨異形性症に一致し,脛骨髄腔の所見はいわゆるスリガラス状と表現されるものである。
多発性外骨腫は両側対称性の長管骨短縮,湾曲と多発性の骨軟骨腫が特徴で,本例とは異なる。骨Paget病は年齢が低すぎる。Gaucher病は骨髄の増殖性変化によって長管骨の形態変化,皮質骨菲薄化,全身の骨濃度減弱を生じ得るが,一般に左右対称性である。多発性内軟骨腫症には,いくつかのタイプがあるが,片側性のOllier病が一側の下肢のみに限局することは稀と思われる。

7.解答c 
橈骨と尺骨の遠位骨端の幅の拡大,盃状の陥没,予備石灰化層の不明瞭化が明らかで,くる病の典型例である。びまん性のosteopeniaも認められる。病歴に難治性のてんかんがあることから,長期の抗てんかん薬投与によって,肝内でのビタミンDが不活型のmetaboliteに変わり,胆汁内,尿内に排泄されるため生じたくる病と推定される。
くる病の鑑別診断には,常に低フォスフォターゼ血症と骨管端軟骨異形性症metaphyseal chondrodysplasia(Schmid type)を挙げなければならない。
低フォスフォターゼ血症の中等症型では,全身性の骨塩減少のほか,骨幹端のくる病様変化,頭蓋骨癒合症,縫合骨などがみられる。尿中フォスフォエタノールアミンの増加が診断的である。歯の異常,精神発育遅滞,歩行障害,異所性石灰化が見られることもある。
骨管端軟骨異形性症にはいくつかの病型が含まれる。Schmid型は頻度の高い病型で一見,くる病に似た画像所見を呈するが,くる病が骨塩沈着障害であるのに対し,軟骨内骨化の障害である。長管骨の短縮,湾曲,成長板の開大,骨幹端から成長板に向かう骨性隆起が認められる。骨密度,血清アルカリフォスフォターゼは正常である点も,骨密度が低下し,アルカリフォスフォターゼが増加するくる病との鑑別に役立つ。

8.解答c
第一指から第四指まで末節骨の骨吸収が明らかで,resorption of tuffの鑑別診断となる。この所見を呈し得る主な病態は,強皮症,レイノー病,乾癬性関節炎,神経性関節症,外傷(火傷,凍傷,電撃症を含む),副甲状腺機能亢進症,表皮水疱症,ポルフィリアなどである。問題の例では,皮質下骨吸収がなく副甲状腺機能亢進症は除外される。

9.解答e
まず,MRIを見ると,膝関節腔内に多発する腫瘤が認められ,T1強調像で筋肉とほぼ等信号強度を呈し,T2強調像で大部分低信号強度の基質に高信号強度成分が混在している。脛骨の関節面には大きな関節下骨の欠損があり,そこにも同様な結節病変が侵入している。色素性絨毛性滑膜炎の典型的なMRI像である,しかし,MRIだけでは結核性滑膜炎と慢性関節リウマチを除外できない。単純X線像で骨に萎縮が全くないことから(骨濃度が正常),これらの疾患を否定できる。滑膜軟骨腫症もX線像で骨化,石灰化が認められないことから否定的であるが,100%可能性がないわけではない。普通,MRI上より小さな結節の多発として描出されることが多く,ひとつ選べといわれれば,やはり色素性絨毛性滑膜炎ということになるだろう。
色素性絨毛性滑膜炎はT2強調像で低信号強度を呈することが多いことで有名な疾患であり,やはり専門医は知っておいた方が良いだろうと思われる。ただし,上述のごとく,MRIだけでは確定診断に至らないことは記憶しておくべきである。
             (以上6〜9は東京歯科大学市川総合病院・辰野 聡会員)

10.解答d
左第1弓がはっきりしない。しかし,シルエットサイン陽性な腫瘤影はみられない。明らかなscimitar血管はないと考えられるので,肺静脈が左無名静脈に還流するsupracardiac type の“雪だるま型”の心陰影と考えるが,肺血管の増強がはっきりしない。

11.解答c
左4弓が丸みを帯び,心尖部が挙上している。左2弓の陥凹と大動脈の拡大を認める。肺血管は減弱しているようであり,Fallot四徴症における“木靴心”と考えられる。

12.解答c
(1) 正 
(2) 誤:心房中隔一次孔の欠損を伴う。
(3) 誤:僧帽弁閉鎖不全症を伴う。
(4) 正
(5) 正
著明な心拡大と肺血管影の増強を認めるとともに,左室造影にて"goose neck sign"を認め,心内膜床欠損症(ECD: Endocardial cushion defect)と診断する.

13.解答c
単純CTにて腹部大動脈において大動脈径の拡大と壁の肥厚を認めるとともに,造影CTにて造影される内腔,造影されない血栓層,造影される肥厚した瘤壁の三層構造を有し,"mantle sign"を認める. mantle signは前壁,側壁に厚く,後壁で薄い傾向がある.明らかな血管外への漏出,血腫,狭窄やintimal flapは認めない.有症状,画像所見及び存在部位から炎症性大動脈瘤を考える.
             (以上10〜13は神戸大学・大野良治会員)

14.解答d
診断所見:右胸腔内の約2/3を占める無構造野を認める。縦隔は左方へ偏位している。
診断プロセス:横隔膜ヘルニアは後外側が欠損するBochdalek ヘルニアがほとんどを占め,出生直後の呼吸困難で発症する左側に好発し,肺低形成,腸回転異常を高率に合併する。一側胸郭が多発性の嚢胞で占められ,縦隔が対側に偏位しているのが典型的である。腹部は陥没し消化管ガスがみられない。先天性大葉性肺気腫は肺葉の進行性拡張で, 肺葉の気腫性変化の原因として,部分的な気管支軟骨の低形成により気管支が閉塞しair trapping が生じることによる。 通常左上葉にみられる。下葉にみられることは極めて稀である。単純写真では一側肺野の透過性亢進と縦隔の健側への偏位である。先天性嚢胞性腺腫様奇形は肺の発生途上における発育停止と考えられており,病変の好発部位はないが,中葉には少ない。95%以上の症例で1つの葉に限局し,病変は気道と交通する。50〜85%が新生児期に呼吸窮迫を主訴に発症する。3つの分類があり,type 1は直径3〜10Bの大きい嚢胞が1〜数個からなり,全体の約50%を占め予後良好である。type 2は直径0.5〜3Bの中等度までの嚢胞が多発し,全体の約40%を占める。type 3は通常約2@以下の嚢胞が多発し,全体の約10%を占める。このtype は全葉または全肺を侵すことがあり,予後は不良である。緊張性気胸は患側胸部の拡大および透過性亢進がみられ,虚脱肺は団塊状を呈し,主に肺門部に向かい収縮する。患側横隔膜は低位平坦化する。
解答は先天性嚢胞性腺腫様奇形と思われる。

15.解答d
診断所見:胸部単純写真において,両側下肺野にスリガラス状陰影を認める。通常CTでは,線状の網目状模様と内部の濃度上昇域がみられる。一部air bronchogram も伴っている。高分解能CTでは病変部の辺縁は明瞭であることがわかる。S5では淡いスリガラス状の濃度上昇のみのところがあり,全体的には淡い濃度上昇を基盤としてそれに濃い網目状陰影が重なっている。背側ではair bronchogramを伴った比較的濃い濃度上昇となっている。
診断プロセス:特発性間質性肺炎は下肺野優位の辺縁性分布を示し,肺の外層より内層に向かってスリガラス陰影を置き換えるように蜂窩肺が進行する。BOOPは両側肺に散在性斑状に分布する濃厚な陰影を特徴とし,蜂窩肺はほとんどみられない。好酸球性肺炎は両側の胸膜に底辺を持つ融合陰影を呈する。病理学的には肺胞腔と肺胞壁への著しい好酸球とマクロファージの浸潤を主体とするもので,細胞浸潤の強い部位では浸潤影を呈し,弱い部位ではスリガラス影となる。頻度的に上中肺および肺の外層に分布することが多い。肺胞蛋白症は,肺胞内にPAS 反応陽性の糖蛋白質が沈着する疾患で,肺の中間層から内層を主体とした斑状ないし広汎な濃度上昇に特徴があり,小葉間隔壁や肺血管周囲組織の肥厚がみられる。肺野濃度上昇域が健常部と明瞭に区別される。CTでは,1. 癒合しやすく比較的濃い細葉陰影で,air bronchogramが目立つが辺縁は比較的明瞭なタイプ,2. air bronchogramはほとんどみられず,辺縁明瞭な淡い濃度上昇陰影を主とするタイプ,3. スリガラス陰影もあるが網目模様が目立つタイプ,がある。悪性リンパ腫の肺野病変には気管支血管周囲間質肥厚型や小葉間隔壁肥厚型などがあり,悪性リンパ腫は否定しえないが,小葉間隔壁肥厚型は極めて少ないといわれている。

16.解答e
診断所見:左上肺野と右下肺野に円形陰影を認める。2週間後の単純写真では同部は空洞を有しており,菌球とair-crescent signと考えられる。
診断プロセス:肺アスペルギルス症は個体の免疫状態によって 1. fungus ball type,2. allergic broncho-pulmonary aspergillosis ; ABPA, 3. semi-invasive aspergillosis,4. invasive aspergillosis の4タイプに分類されるが,日和見感染としてみられるのは3. ,4. である。本例は白血病の化学療法中ということもあり,侵襲性肺アスペルギルス症と考えられる。侵襲性肺アスペルギルス症は強度免疫低下状態で急激に発症する。画像所見は多彩であるが,初期には単発または多発性の浸潤影や結節影を示し,初期の陰影が円形であることが比較的特徴的といわれている。air-crescent sign は,肺組織の壊死のための空洞辺縁の三日月型のair density で,好中球回復期に認められ,早期にはみられないといわれている。1. は健康人にみられ,既存の結核性空洞や拡張した気管支の内部に形成される。

17.解答e
診断所見:胸部単純写真で,心拡大と肺門を中心にび漫性の融合影がみられ,Kerley's A lineと bronchial cuffingも認められる。
診断プロセス:臨床症状でも呼吸困難が増悪し,起坐呼吸の状態であったことから,心不全と肺うっ血が存在しているものと思われる。両側下肺野のcoarse crackle は肺うっ血によるものであろう。急性に起こってきた心不全とすれば何らかの原因があるはずである。一般には,急性心筋梗塞や腱索の断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症などが挙げられる。細菌性(感染性)心内膜炎はVSDやFallot四徴,PDAなどの先天性心疾患や,リウマチ熱,動脈硬化などによる後天性弁膜性心疾患などの存在が基盤になっていることが多いが,基礎疾患のない場合も約26%程度存在する。細菌性心内膜炎は心内膜の疣贅性変化が特徴的で,僧帽弁,大動脈弁の順に侵されることが多い。弁尖の可動性低下や腱索断裂さらに潰瘍性病変による弁穿孔などが起こるため,閉鎖不全から突然の心雑音や心不全を呈することがある。よって解答は細菌性心内膜炎とそれによる急性左心不全と思われる。本例では,拡張期心雑音の種類は銘記されていないが,拡張期雑音には,拡張期ランブルと拡張期駆出性雑音,拡張期逆流性雑音がある。拡張期ランブルは心室急速充満期に生ずる拡張早期の雑音でMS がその代表である。拡張期駆出性雑音は拡張末期の心房収縮によって起こり,MS が代表的である。拡張期逆流性雑音は大動脈弁閉鎖不全症,肺動脈弁閉鎖不全症にみられる。よって,本例の拡張期雑音は大動脈弁閉鎖不全症によるものを疑う。なお,SLEはLibman Sacks 心内膜炎(非細菌性心内膜炎)を合併することがあり,これは僧帽弁や大動脈弁に疣贅を来し,器質化すると狭窄,閉鎖不全を来す。SLEの肺病変は胞隔炎,間質性線維症,閉塞性細気管支炎,肺血管炎,肺出血,肺血栓塞栓症,肺高血圧など多彩である。急性ループス肺炎は,肺の末梢あるいは小葉中心性に始まり,急速に肺胞腔を完全に充填する強い浸潤影の拡大と進行が見られることから本例の画像とは合致しにくい。そして,SLEは急性期には白血球はむしろ低下する傾向にあることよりも,SLEの増悪は否定的である。
               (以上14〜17は大阪医科大学・土肥美和子会員)

18.解答e
診断所見:胸部単純X線写真(A)では,右下肺野に横隔膜と境界不鮮明なconsolidationを認め,内側寄りに気管支透亮像を有する。1カ月後の胸部単純X線写真(B)で,この病巣は収縮性に変化し,挙上した横隔膜上に不整形陰影となっている。新たに右上〜中肺野を占める浸潤影を認めるが,この陰影は末梢の透過性がより低い。また左中肺野にスリガラス様の斑状影も新しく出現している。
診断プロセス:胸部X線写真の1カ月間の経時的変化のみの情報であるが「浸潤影の遊走」がみられる。このことからBOOPまたは好酸球性肺炎(選択肢にはない)を考えつくことは想像に難くない。ここは素直にそのつもりで陰影を見直すと,いずれも主病巣は"air space consolidation"であって,特に(B) は末梢優位で非区域性に広がる陰影,いわゆる"photographic negative of pulmonary edema" であり,あるいは対側に"ground glass opacity"も出現している。BOOPを確認するに充分といえる。
鑑別疾患の必要性等:胸部単純X線写真がそれぞれ単独なら,(A)はまずは肺炎を考えBOOPを疑うことはないし,(B)でも横隔膜上の陰影が果たして結節影でないかなどと迷うとところである。選択肢はこのあたりを加味してあるが,BOOP以外のいずれとしても単一疾患で1カ月の間に縮小と増悪が出現することはないであろう。本題は,典型的なBOOPのX線像の知識を問いながら,日常読影にあたって経過が重要なことをも示している。低難易度良問と思う。

19.解答d
診断所見:胸部単純X線写真で,左肺野に空洞を伴う大小の結節影を認め,右下肺野にも前後に重なる結節影を疑うが,肋横角が鈍化し透過性が低下していて,その輪郭や内部は不鮮明である。CTでは,両側とも末梢胸膜沿いに多発結節影のあることがわかる。それぞれに壁の厚い,不整形で内容の不均一な空洞をみる。両下葉背側の結節には内部に向かって走行する数条の肺動脈影や気管支透亮像を確認できる。また右>左で両側胸水を伴っている。
診断プロセス:本題の主旨は多発空洞性結節影の鑑別診断であるが,c-ANCAを知っていても即断できる。
a.△:血行性感染で急性期の場合,比較的大きな多発結節影,厚壁空洞を呈することがあり必ずしも除外できない。
b.△:好発部位,結節の大きさ,分布などからは考えにくいが…。
c.×:胸陰影は通常浸潤影である。
d.◎:CT所見から最も疑われる。胸水を伴う頻度は低いがまれではない。
e.×:ここではリウマチ結節 (necrobiotic nodules)を指すが,せいぜい2〜3Bまでのことが多い。
鑑別疾患の必要性等:転移性腫瘍や感染症(真菌症,寄生虫)など。唯一の臨床情報が,画像と無関係に診断できる特異抗体 =c-ANCAである。画像所見が絶対でないからということもあるだろうが,むしろ出題者の意図としては,選抜試験ではないので難易度を少し落とすけれど,これくらいは知っておきなさい,というところであろう。

20.解答a
診断所見:胸部単純X線写真で,両側上〜中肺野血管影に不整な肥厚があり,右上葉では不整な線状陰影と小結節影を含むものや,左中肺野の横走する数珠状陰影や末梢の索状影などの限局性の陰影もみられる。両下肺野もややroughで網状な感じであるが体外陰影の重なりもあって確実でない。右肺門の腫大(UHL)も疑われる。CTは大動脈弓レベルでの左上区のHRCTである。気管支肺動脈束の不規則な腫大を認め,棒状の陰影が中枢から胸膜直下にまで描出される。あるいは小葉間隔壁の肥厚や胸膜の不整像,胸膜面の小結節影を認める。右上葉にも同様の所見を見て取れる。
診断プロセス:X線所見から,病巣はびまん性の病変でより上肺野に分布している。特にHRCT所見から,この病巣が気管支血管血管束周囲を主座として,小葉間隔壁や胸膜面にも分布することがわかる。この病変分布は選択肢の中から唯一サルコイドーシスにみられるものである。
鑑別診断の必要性等:癌性リンパ管症など。HRCTでの2次小葉と関連した病巣分布の解析は多くの成書があり参考にされたし。普段からこうした読影を心がけていればなるほどと頷いてしまうような問題であろう。
            (以上18〜20は島根県立成人病予防センター・吉川和明会員)

21.解答a
診断所見:T2WI下段のスライスで両側の正常卵巣が同定できる。腹腔内に多房性の嚢胞性病変を認め,内容はすべて水に近い信号強度を示している。
診断プロセス:正常卵巣が同定できることよりpolycystic ovaryとserous cystadenoma は除外。嚢胞内容に血液成分が含まれないことより内膜症性嚢胞を除外。peritonealinclusion cyst がこれほど多房性になることはないので除外。
鑑別診断:pseudomyxoma peritonei, lymphangioma
その他:cystic mesothelioma は稀な疾患なので,この疾患についての知識を問われているのではないと思われる。その他の選択肢を熟知していなければならない。

22.解答d
診断所見:子宮筋層内にT2WIで iso intensity を示す境界明瞭なmass lesionあり。辺縁部にlow intensity rim が見られる。T1WIでは全体に淡い high intensity を示し辺縁に向かうほど信号強度の増加が見られる。
診断プロセス:典型的な赤色変性子宮筋腫の所見である。
鑑別診断:平滑筋肉腫 (ただし厳密には鑑別できない。)
            (以上21〜22は松江生協病院・黒田弘之会員)

23.解答c
診断所見:superior mesenteric artery からcatheterを進めて,ileocecal arteryを超選択的に造影したものである。ileocecal artery本幹はかなりspasmが強い。辺縁動脈の拡張およびpooling様所見を認め,extravasationと判断される。なお,明らかな静脈の描出はみられず,(b)の動静脈瘻があるとはいえない。
診断プロセス:辺縁動脈の拡張およびpooling様所見が診断上,重要な所見と考える。
その他:extravasationと判断したが,本所見を動脈相1枚で判断させるのは問題として不適切であり,やはり静脈相の写真まで出題してもらわないと正確な解答とはならない。消化管出血の治療に血管収縮剤バゾプレシン持続動注療法が行われてきたが,動脈塞栓術の普及によりその適応は狭くなった。本症例の場合,出血源となるfeeding arteryが数本あるようで,またileocecal artery本幹もangiospasmが著明であり,これ以上microcatheterが末梢に進まず,動脈塞栓術による治療が不可能な場合,本法も止血目的のために一治療法として考慮すべきである。(d)の禁忌という解答はおかしい。小腸・大腸の出血症例に対する動脈塞栓術において念頭に置いておくべきことは,塞栓後の腸管壊死・狭窄等の合併症を来すことがあるので,辺縁動脈の広範囲塞栓,複数のvasa rectaの塞栓は避けるべきで,辺縁動脈の小範囲の塞栓,単数のvasa rectaの塞栓を行う。しかし本症例ではangiospasmが強く,microcatheterのよりdistal側へのcatheterizationは必ずしも容易でなく,また出血源となるfeeding arteryが数本あるようで,通常の動脈塞栓術は必ずしも容易ではないことが予想される。そのためバゾプレシン動注療法,あるいは大口径の一時塞栓物質やマイクロコイルによる一時中枢塞栓術等を行い,IVR治療は止血目的を出血コントロール目的に切り替えて直ちに外科治療に委ねるのが得策かと思われる。(e)の禁忌という解答はおかしい。

24.解答d
診断所見:注腸X線写真であるが,病変はS状結腸を主体に認められ,径数@から約2B大の大小さまざまな隆起が多発している。個々の隆起は表面平滑で立ち上がりなだらかなものが多く,特に頂部に陥凹があるようには読みとれない。いわゆる多数の粘膜下腫瘍様の隆起である。これらの隆起部分に一致して,X線の透過性は著明に増し,腸壁に沿った形で異常なガス像が散見される。なお,下行結腸はオーバーな条件とバリウムの付着不良で,詳細な粘膜面の異常は読みとれない。
診断プロセス:大腸に多発する粘膜下腫瘍様の隆起性病変で,さらに各々の隆起部分に一致した異常ガス像に気づけば,他の鑑別診断はまず挙げられない。
鑑別診断の必要性等:本症の鑑別診断上のポイントは多発性の大腸粘膜下腫瘍様病変と個々の隆起部分に一致した異常な壁内ガス像である。もし腸壁に沿った異常ガス像が明瞭に認められない場合には,多発性粘膜下腫瘍としての鑑別診断がいくつか挙げられる。当施設で経験した大腸粘膜下腫瘍の約150例の検討では,多発例はまずMLPタイプの悪性リンパ腫が最も多く,他には脂肪腫,リンパ管腫,Blue rubber bleb nevus syndromeの中の血管腫,直腸のカルチノイドなどが認められている。また文献的にはCap polyposis, metastatic tumors,ATLやleukemiaなども報告されている。
その他:腸管嚢腫様気腫症(PCI)は,腸管壁に多発性の含気性小嚢胞が集族して発生する比較的まれな疾患で,各種の原因によって起こる症候群と考えられている。腸管内圧の上昇を生じる幽門狭窄やイレウスなどの消化器疾患や慢性閉塞性肺疾患などに伴う続発性と合併疾患のない特発性とに分類される。特発性PCIは大腸,特にS状結腸に多く,本邦でも最近報告が増えている。また特発性PCIのうち,大腸についてはトリクロルエチレン暴露との強い関連が述べられている。20〜40歳台の男性に多い。一般的に本症に特有な症状はなく,腹部膨満感,腹痛,下痢等の不定愁訴が主である。本症の画像所見について,腹部単純X線写真での小腸や大腸壁に沿って認める大小不同の蜂巣状ガス像は特徴的である。また小腸および注腸のバリウム検査では腸管壁内に多発性の円形ないし楕円形の大小不同の透亮像を認め,多発性の粘膜下腫瘍やポリポーシスが鑑別となるが,本症の場合は隆起と腸管壁の間にガスを認めることで鑑別は容易でる。本症例は病変が広範囲かつ多発性に認められ,典型的なガスのパターンがみられれば,まず鑑別の必要はないと思われる。
本問題に関して一言いうならば,解答に相当するdの“腸壁嚢状気腫症”という診断名表現であるが,通常“腸壁”とは言わず,“腸管”と呼ばれるのが一般的な日本語名称ではなかろうか。本来の病名も "intestinalis" であり,これを“腸壁”とは訳さないであろう。その点で,これは正確な表現かと少し疑問に思い悩んだ人も中にはいたかも知れない。別の解答(b)に“大腸ポリポーシス”というのがあるが, これは家族性大腸腺腫症, Peutz-Jeghers症候群,Cowden病,若年性ポリポーシス,Cronkhite-Canada症候群などが代表的なものであり,この腸管嚢胞状気腫症はこの“大腸ポリポーシス”の範疇に入れられることはない。まして(a)潰瘍性大腸炎,(c)大腸癌,(e)骨盤内膿瘍などの所見はない。

25.解答d
診断所見:症例はBillroth 泱@で再建された術後胃であり,その背臥位二重造影正面像の写真である。写真の焼き付けの時点での問題かもしれないが,条件が全体にオーバーであり,残胃に関する粘膜面の詳細に関してはとても読影できない。吻合部付近はかろうじて粘膜面が椎体に重なっているものの何とか読影可能で,吻合部より肛門側近傍に明らかなバリウムの溜まりが認められ,ニッシェと考える。ニッシェの形状は辺縁やや不整であるが,かなり深い潰瘍であり,その周囲に明らかな蚕食像は指摘できず,悪性を積極的に示唆する所見は読みとれない。通常,術後吻合部肛門側のこの部位にニッシェを認めたら,術後消化性潰瘍,すなわち吻合部潰瘍が最も考えられる。
診断プロセス:手術胃でBillroth 泱@で再建されていること,撮影体位はバリウムの溜まっている部分が胃の穹窿部と十二指腸下行部であることから背臥位であること,病変がバリウムの溜まりの部分ということがわかれば,吻合部より肛門側にあることがわかり,バリウムの溜まりは陥凹性病変を表し,それが悪性か良性かはこの写真のみからいえないこと,などから診断は容易である。
鑑別診断の必要性等:本問題に関して,鑑別診断はまずないといえる。
その他:術後消化性潰瘍または吻合部潰瘍は胃または十二指腸疾患の手術的治療の場合に,行われる吻合術のあとに発生する潰瘍をすべて含んでいる。本疾患はBillroth 法の空腸側に発生することが多いが, Billroth 泱@のように胃と十二指腸を吻合したときにも起こる。原疾患は胃・十二指腸潰瘍,ことに十二指腸潰瘍に対する手術後に多くみられる。そして,胃液の遊離塩酸が本症の発生に大いに関係している。但し,近年はほとんどの消化性潰瘍の治療はPPIなどの薬物的治療が主体となっており,遭遇する機会は減っている。しかし,胃・十二指腸潰瘍における出血や穿孔などの緊急手術やZollinger-Eillison症候群などの場合には気をつけておかねばならない疾患である。なお,一般に胃癌の手術後に本潰瘍の発生をみることはほとんどない。
             (以上23〜25は九州大学医学部付属病院・川元健二会員)