第8回(1999年)二次試験問題解答および注釈
【治療】 1.〜7.

1.
(1) 放射線治療のやり方
I 根治的治療
1. 治療可能比を考慮し病巣を治癒しうる線量を投与しつつも晩期有害事象をさけるように工夫する。
2. 腫瘍の性質や進展様式を十分に理解したうえで,照射野の設定にあたる。
3. 根治性を高めるための併用療法の有無を検討する。
4. 早期有害事象により治療が中断しないよいうに注意する。

II 対症療法
1. 症状の緩和が目的であるので,まず病巣をはずさないように照射野を設定する。
2. 予後不良の場合は,晩期有害事象は考慮しなくて良い場合が多い.ただし,甲状腺癌,乳癌,前立腺癌のように,転移があっても長期生存する疾患に関しては,対症療法といえども,晩期有害事象を避けるように工夫する。
3. 症状の緩和が得られる線量で十分である。
4. すみやかに治療を開始し治療期間をできるだけ短くしQOLの向上をはかる。

(2)検査や全身管理
I 根治的治療
1. 組織学的診断の確認を行い,診断に疑いがないかどうか検討する。他に考えられる診断を鑑別として挙げておき,臨床経過と組織診の照合を行う。
2. 放射線治療前に腫瘍の進展範囲を画像的に検索する。ただし治療が遅れては意味がないので,転移の検索は治療が開始されたあとでも良い。
3. 治療中の経時的な効果を評価し,照射野の縮小などの治療方針の参考にする。
4. 治療終了後も効果判定や再発,有害事象の発生を検索するために,定期的に画像診断や腫瘍マーカーの検索を行う。
5. 全身管理に関しては,放射線治療の継続のため,必要であれば投薬,生活習慣の改善(禁酒,禁煙)を行う。

II 対症療法
1. 必要最小限の検査にとどめる。症状の緩和が目的であるので,治療効果判定のための画像診断も必ずしも必要でない。
2. 全身の病巣の広がりを知り,予後を推定するために検査を行う。
3. 放射線治療が患者の負担にならないように配慮する。他の治療法で症状の緩和がはかれるならば,負担のかからない治療法にすみやかに切り替えることも重要である。
4. 放射線治療部位に対する管理よりも,全身的な管理を優先する。

2.
(1) 解答はb。最も多いのがb,次はc,最後がaである。
(2) 報告をまとめるとおおむね60〜85%である。この範囲の数値が記載されていれば良い。
(3) 1987年TNMによれば,T4とは“Tumor invades skull and/or cranial nerves”とある。
(4) 必ずあげるべき脳神経は」、.数例の上咽頭癌を見たことがあれば,必ず経験する。次は教科書によれば,III とXII 。IV ,X もあるが,見落とすことが多いため記載される頻度は少ない。
次はVII ,IX 。I,II,VIII ,XI は少ない。
 今まで見てきた上咽頭癌症例での先入観に惑わされるかもしれない。Perez & BradyのPrinciple and practice of radiation oncology (Lippincott-Raven)に報告のまとめが記載されている。
(5) 1. 頸部側の照射野の正中を鉛カットで打ち抜く。2. 頸部側の照射野のつなぎめの正中部分に小さな鉛カットを入れる。3. つなぎ目のレベルを照射期間中に何回か変更する。
(6) 1. 側頭葉の脳壊死 2. 唾液腺障害(口腔乾燥,味覚異常,虫歯) 3. 開口障害(顎関節障害)
myelopathyは出さないように治療するので,予想されるようではいけない。
(7) IV 期がどれだけ含まれるかにより報告された成績は異なるが,おおむね全体としては30〜50%。この範囲の数値が記載されていれば良い。

3.
(1) <留意すべき点>
1. 下咽頭の照射野と今回治療すべき範囲に重なりがあるかどうかに留意する。もちろん照射野ばかりでなく,照射の方向,線質,エネルギーについての情報も集めておく。
2. 術前照射の目的はなにか,なにをもってゴールとするかを十分に討論しておく。
<注意点>
1. 下咽頭の照射野と重なる部分があれば,晩期有害事象を出さないように照射野,線質,分割法を工夫する。脊髄線量に関しては特に注意をする。
2. 下咽頭の照射野と重ならない部分(肺など)に関しても,当然,有害事象をださないように計画をたてる。
(2) 一般にMFHの照射効果は不良である。組織球系細胞が多い方が線維性成分が多いものよりも照射効果が良好な場合が多い。どの程度かとの問いであるが,軟部腫瘍のなかでは,脂肪肉腫,横紋筋肉腫より照射効果は不良である。術前照射の目的を腫瘍の縮小をはかり,術中の播種をさけることとすれば,2 Gy通常分割で40〜50Gy程度でよい。放射線治療のみで根治をはかるには60Gy以上の線量が必要である。
(3) MFHに有効な化学療法は確立していない。温熱療法で良好な報告が散見される(Hiraoka et al., Int. J. Hyperthermia, 11: 365-377, 1995)。
(4) 時期的にみて異時性重複癌である。
(5) 1991年の日本癌治療学会癌規約総論(金原出版)によれば,
 a. 重複癌とは異なる臓器にそれぞれ原発性の癌が存在するものをいう。同一臓器内に同じ組織型の癌が多発するものを多発癌という。同一臓器内に異なる組織型の癌が存在する場合,重複癌と呼称することもある。多発癌と重複癌をあわせて多重癌という。
 b. 潜在癌(occult carcinoma)とは転移巣は明らかであるが原発巣が不明の癌。ちなみに潜伏癌(latent carcinoma)とは剖検や手術などで偶然に発見された癌と解釈するものが多い。
(6) がんの統計'99(財団法人がん研究振興財団)による国立がんセンター中央病院のデータでは,
a. 同時性多重癌は男10.4%,女5.00%で異時性多重癌は男1.71%,女1.51%である。
b. 同時性,異時性ともリスクが増加しているものは,
口腔咽頭と食道
口腔咽頭と喉頭
結腸と直腸
同時性のみリスクが増加しているものは,
口腔咽頭と甲状腺
食道と胃
食道と甲状腺
喉頭と甲状腺
子宮体部と卵巣
前立腺と膀胱
膀胱と腎
異時性のみリスクが増加しているものは,
肺と甲状腺
食道と喉頭
喉頭と肺
子宮体部と結腸
このほか第一癌の治療に因果関係のあるものとして,ホジキン病と白血病,乳癌と子宮体癌などがあげられる。

4.
(1) T4N0M0でstage。
(2) 右主気管支浸潤があること。
(3) (照射野設定)
長径14BのT4進行癌である。一般に10Bを越える進行食道癌の根治性は極めて低い。よって,腫瘍に合わせて上下のmarginはほとんど不要で,幅は7〜8B程度で良い。鎖骨上下窩の予防的照射(T字型照射)も必要ないと考えられる。照射効果が良好で,根治性があると判断された時点で予防的な照射を考えればよい。
 (照射方法)
一般的には,脊髄の耐用線量(40Gy程度)まで前後対向2門法で照射を行い,その後,斜入2門や3門照射により脊髄線量を落とす工夫をする。
 (投与線量)
2Gyの通常分割で60-70Gy。根治性があれば腫瘤にしぼって70Gyまで照射する。気管支浸潤例なので,一回線量を1.8Gyに落としても良い。加速多分割照射は気管支浸潤例なので穿孔の危険があり用いない方が良いと考えられる。
(4) 5%未満(0〜5%)。
(5) b. 50%と思う。剖検例でのCR率が20〜30%あるので,c. 80%は絶対に違うと思う。
(6) 進行食道癌の放射線治療成績は不良であるが,手術成績も不良である。放射線治療に限って予後不良とする理由は難しいが,
1. 食道癌は,症状が現れづらく進行癌となることが多い。従って腫瘍容積が大きく,放射線治療に不向きな例が多い。
2. 外膜を持たず周囲の重要臓器に浸潤をきたしやすい。従って,放射線治療で癌が治っても,穿孔,穿通を起こすし致死的となることがある。
3. 所属リンパ節は照射野に含め得るが,リンパ節転移だけでなく血行性転移も多い。
              (以上1〜4は群馬大学・桜井英幸会員)

5.
(1) UICCによる病気診断では,T2N3M0 stage III Bである。
(2) 解答例:患者のPS,体重減少,呼吸機能,肺間質性陰影などが考慮され,それにより治療野が加減される。広めのFieldとしては,両側鎖骨上窩,縦隔,同側肺門,primary tumorを含むものが考えられる。(進行肺癌では,鎖骨上窩は予後に影響しないし,以外に転移の頻度は低く,noncurativeのcaseに鎖骨上部の照射はいかがなものかという意見もある。)Primary tumorのマージンは2cmとする。それ以外のマージンは1cmとする。呼吸性移動を考慮に入れる。照射野の下縁はcarina下5cmを基本とする。正常肺はできる限り照射野から外されるべきである。40〜45Gyの範囲で脊髄を外した照射野とする。(斜入,三門,横対交二門→斜入など。treatment volumeに健常肺がなるべく含まれないようにする。もしくは,耐用線量内になるように工夫する。統一された見解はなく,case by caseといえる。)総線量は60Gyから70Gyの範囲。
(3) 解答例:
1. 呼吸機能(FEV1,DLCO,PaO2,PaCO2など)を観察する。
2. 治療前に肺間質性陰影が見られる場合,放射線肺臓炎の頻度が上昇する。
3. 肺野を含む大きさは,一側肺の1/2以下に留める
4. 食道が外せる場合は極力外す。
5. 低肺機能,高齢者の場合,縦隔や肺門への照射を避けることも考えに入れる。
6. 化学療法併用の場合,高線量は避ける。
7. 一般的に胸髄の耐用線量は腰髄に比べ低いといわれているため,脊髄は耐用線量に余裕をもって外す。(実際には60Gyでも横断症状は起こらないという説もあるが,血管系に問題がある場合,組織修復能に問題がある場合など潜在的に問題がある場合があるので,安全に行いたい。横断症状は起こしてはならない。
8. 肺気腫などで肺の透過性が亢進している場合,過線量になる場合がある。
9. 肺門部に高線量をいれない。
10.皮膚障害を避けるための一般的な注意
11.肺の耐用線量の範囲で多門照射の検討
12.喉頭の遮蔽
13.照射野に含まれる肺が多い場合は,線量を加減する。
14.禁煙の指導,等等 
(4) a.利点:放射線に対して反応の遅い正常組織と反応の早い癌の治療比を向上できる。すなわち,放射線の慢性障害を同等に留め,多くの線量を入れられる。標準的な分割と同じ治療期間で多くの線量を照射できる。分割を小さくすることにより,ゆっくりと増殖する細胞は放射線抵抗性となる。すなわち遅い反応を減らすことができる。照射間隔を短くすることにより,細胞回転が速い腫瘍細胞は,正常組織に比べ放射線感受性の高いcycleが多い分障害を受けやすい。
 b.照射スケジュール:どういったスケジュールが最適であるかはっきりと決まっているわけではない。一般的には1.15Gy〜1.25Gyのfraction(多くは1.2Gy)の照射を6時間以上の間隔を空けて一日2回行う。
等価線量は,反応の遅い組織に対しては20%ほどのgainがあるが,反応の早い組織に対しては5%ほどとするならば(それぞれの組織のα/βに左右される)線量は14%ほど多く入れられる。等価総線量の計算はLQmodelの計算式で算出することができる。等価総線量はどの組織のα/βの値をとるかで異なってくる。(通常は3程度か,脊髄は2程度)LKにおいて,最近のRTOGtrialsでは60Gyの通常分割と69.6Gy/58f/6w(実動29日)が比較される機会がしばしば見られる。照射間隔については,正常組織のSLDRが6時間かかるためとされるが,脊髄に関してはもっと時間がかかるといわれる。
(5) 1. CDDP 100J/m2 days 1 and 29 + vinblastine 5J/m2 weekly*5weeks
通常分割で60Gy/30fの放射線治療追加
同時併用では食道,肺に副作用が多い傾向がある。Hyperfractinationでは副作用が多い傾向がある。
 2. docetaxel 30 mg /m2 weekly 放射線治療60Gyと同時
薬剤投与後1時間程度経過してから放射線治療を行う。食道炎に注意
 3. paclitaxel 60 mg /m2 weekly 放射線治療60Gyと同時
食道炎に注意
 4. CDDP100 mg /m2 day 1.29
MMC 8 mg /m2 day 1.29
Vindesine 3 mg /m2 day 1.8.29.36
放射線治療は通常分割で50Gy 同時併用
 5. CDDP 6 mg /m2(carboplatin 20〜30 mg /m2) daily 放射線治療60 Gy 程度と併用
Chemoradiotherapy後にCDDPbaseのchemotherapyを追加するregimenあり。
※ この他にも多数のcombined regimenが存在します。Conventional fractionと共に行われているもので,成績のよいもの,大規模なtrialのものを選んでみました。全体的に,日本人にとっては薬剤の量が多すぎるように思われます。
(6) 本症例のような病期の場合,放射線治療の成績として,2年生存率は10〜18%程度,5年生存率は2〜8%程度が予想される。

6.
(1) この症例の術中照射には,6〜12MeV(切除可能の場合)の電子線を使用し,20〜30 Gy 照射する。
(2) (利点)
他臓器の被曝を最小限にでき,治療可能比が向上する。
腫瘍を直接観察し,腫瘍の広がりを予測できるため,照射野を正確に設定できる。
放射線生物学的に不利な面もあるが,同じ線量なら,多分割照射より1回照射のほうが効果が大きい
 (欠点)
もし正常組織に大線量が照射された場合(十二指腸,腎,尿管,胆管など),受ける障害も大きくなる。大血管や骨,末梢神経などの障害の可能性も低いながらありえる。
患者側の負担,病院にとってのcost benefitが大きすぎる。広がる傾向のあるcarcinomaの場合,局所制御は上がっても,生存率を改善するのが難しい。
分割照射ができない。
(3)
Ph:上腸間膜静脈と門脈の左側縁と十二指腸壁内側縁で囲まれた部分とする。頚部および鉤状突起を含む。
PV0:門脈系への浸潤が認められないもの。
pw(−):切除断端における浸潤が認められないもの。
ew(+):膵周囲剥離面における浸潤が認められるもの。
(4) 術後照射は1回線量2Gyで40〜50Gy追加する。
(5) 期待しうる3年生存率は約7〜23%(治癒切除例の併用で55%の報告もある。),平均生存月数は約10〜19ケ月(同上39.9ヶ月)で,疼痛改善率は50〜100%である。
(6) (方法)組織内照射
(理由)効率的に膵臓に高線量を配置する。外照射を追加する場合もあった。
(結果)125I(もしくは103palladium)を膵臓に刺入する。1年あたりで160〜200Gy(110Gy)の腫瘍線量が照射されている。生存率の改善は目立ったものではなかった。膵漏,膿瘍形成,十二指腸潰瘍の穿孔,膵炎が見られた。

(方法)速中性子線照射
(理由)組織の酸素濃度等の環境に左右されず,腫瘍細胞を殺傷することができる。LETが高い。
(結果)過去に行われたRTOG trialでは,光子線と比較して,局所制御,生存率に関し,優位性は認められなかった。

(方法)化学療法の併用。さまざまなdoseの5FU等を放射線治療に併用する試みが行われている。最近では,paclitaxelの併用例が見られる。
(理由)放射線への増感効果,薬剤の抗腫瘍効果など
(結果)さまざまな報告が出ているが,決定的にこの治療法が予後に貢献するとはいいきれない。

(方法)温熱療法の併用
(理由)放射線治療の苦手とする,低酸素,低pH,Sphase等の細胞に有効。
(結果)まとまった報告は多くない。温度上昇がうまくいった場合,非常によい効果を得る場合も比較的見られるが,温度管理が難しいため,一定していない。決定的に予後に貢献するとはいいきれない。

7.
(1) c.心外膜
(2) 40Gy程度の放射線が脊髄(mantle照射野など)に照射された後,多くは2〜4カ月後に一過性に起こる。首を前屈するもしくは腕を伸ばした際に,痺れや痛みが手に生じるもしくは脊髄に電気を通じたような感覚が起こること。神経症状はないものとする。原因は,一過性の神経の脱髄によると思われる。症状出現が遅い場合,脊髄炎に移行する場合がある。
(3) 通常分割法で(45〜50Gy/22〜25回),全脊髄照射では(40〜50Gy/20〜25回)
※全脊髄への分割照射のデータが少なく,今回はこの程度しか発見できませんでした。実際にはwohle spineへの照射が30Gyより多く行われることはあまり多くないと思われます。
(4) parallel organ:多くのsubunitで全体が構成されており,それぞれのsubunitが平行し て同じ機能を果たしているもの。一部を損傷しても全体の機能が無くならないもの。
 serial organ:一部を損傷してしまうと,器官としての機能が損なわれるもの。
parallel organは一定以上の量のsubunitが破壊されると,器官としての機能が損なわれるため,その量を見極めることが必要。
organ modelを使った検討では,parallel organに対しては,少ない門数で治療することが,よりよい腫瘍のcontrolにつながるとされている。
(5) a.Parallel organ:肺,肝
b. Serial organ:食道,心臓,大血管
(6)
  因子         合併症            対策
■肺の間質性変化   放射線肺臓炎      treatment volumeの調節
                       過線量を避ける
                       併用療法の加減
                       肺機能,間質性変化等の評価
■喫煙      放射線性喉頭炎   早期に禁煙
                      投薬にて炎症を静める等
■胃酸、ペプシノゲン 放射線性胃障害    胃酸等の抑制
■糖尿病       黄班障害,視神経障害 糖尿病のcontrol
                     照射野の工夫
■転移性脳病変    血小板減少症      化学療法の同時併用を避ける
                 骨照射野に含まれる
                 骨髄量の調節
※paper上で,有意とされているものを挙げた。実際には,糖尿病,膠原病,vasculitisなどの血管に潜在的異常を来す疾患群や代謝異常などに注意するべきと思われる。また,全身の栄養状態,PS,生活習慣病,職業歴など様々な因子が関与してくると思われ,解答は多岐にわたると思われる。
         (以上5〜7は社会保険船橋中央病院・根本和久会員)