Johns Hopkins 大学放射線科 河本 里美
今回女子医学生、研修医の方々に放射線科の魅力について語るようにというご依頼をいただき、僭越ながら自分の経験を書かせていただきます。卒後3年間、内科研修医として働き、その後、約20年間放射線診断医としてやってきて、自分ではいつまでも初心者の気分でしたが、いつの間にか年齢のみからいうとすっかりベテランになってしまいました。その間、家族もでき、子供もひとり授かり、多くの方に助けていただきながら、なんとかやってくることが出来ました。
さて、私が放射線診断学に興味をもったのは、群馬大学の学生の頃、当時核医学の教授をされていた佐々木康人先生が、講義中にその年の米国核医学学会で“Image of the year”に選ばれた一枚のPETの画像を見せてくださったのがひとつのきっかけだったと思います。乳癌の腋窩リンパ節転移が赤く一目瞭然に光っていました。(今では当たり前に日常診療に使われていますが、20数年前学生だった私にはとても印象的でした。)また、当時まだ一般的でなかったMRIが群馬大学では稼動していて、当時中央放射線部にいらした恩師の平敷淳子先生がきれいなMRI画像をみせてくださり、学生だった私にはまるで実物を見ているように感じられ、画像診断に心をひかれました。もともと私はVisually orientedとでもいうべきか、視覚から入っていきやすいタイプだと思うのですが、これらがきっかけで、画像診断をやりたいと思うようになりました。
でも、やはり、患者さんの診療に直接かかわりたいという気持ちも強く、またいきなり画像診断にはいっていくのにも抵抗があり、卒業後はまず、内科の研修を希望しました。初めは2年間のつもりでしたが、内科は忙しく、卒業後すぐの私には学ぶことも無限にあり、2年などはあっという間にすぎてしまい、結局、3年間内科の研修をしました。3年目には内科を続けるか、放射線科をするか悩みましたが、初めの希望どおりに放射線科に進むことにしました。
内科研修医の頃に1ヶ月間放射線科(診断)のローテーションに入り、内科との違いに驚きました。内科で研修医として患者さんをもつと、切り替えの下手な私は、時間的にも精神的にもすっかりのめり込んでしまって、四六時中、診療から体も頭も離れられなくなってしまいました。それはそれでやりがいがあるのですが、あまりのめり込み過ぎると疲れてしまいます。これに反して放射線診断科では適度な患者さんとの距離があり、私にとってはこの期間に、日常診療以外のことに目を向けることができたことが新鮮に思われました。
この時の内科の経験は放射線科医としてやっていく上でも、何かと役にたっていると思います。読影の際には画像以外の情報に頼り過ぎないように気をつけていますが、得られる患者さんの情報は最大限利用するようにしています。医学の知識は診療科などにより細分化されていますが、結局は一人の患者さんに収束するもので、若いうちに多少の寄り道をしてもいろいろな分野を学ぶのは、時間的にはマイナスの面もあるものの、決して無駄にはならないと思います。
内科研修後、埼玉医科大学放射線科で当時教授をされていた平敷淳子先生にご指導いただき、放射線診断学を学びました。卒後5年目から平敷淳子先生のお力添えにより米国に留学し、放射線科での臨床、研究に携わりました。メリーランド州にあるJohns Hopkins大学放射線科にてMRIのリサーチフェローおよびレジデントとして5年間過ごし、さらにその後1年はCross Sectional Imagingのクリニカルフェローとして、臨床および研究に従事しました。その後、日本で放射線科に勤務し、また機会があって2001年よりJohns Hopkins大学放射線科のDiagnostic Imaging Sectionのスタッフとして、主にCTと超音波の臨床、医学生、レジデントおよびフェローの教育、およびCTの臨床研究に従事しております。
フルタイムで医者の仕事をして、子供を育てるのは簡単ではありませんが、主人の暖かい協力と、さらに義両親、実両親による協力や、上司や同僚の理解もあり、なんとかここまでやってくることができました。これまでご指導くださった先生方、助けて頂いた先輩や同僚、家族には心から感謝しています。米国と日本では状況が異なりますが、米国でも放射線診断医は女性に人気があります。やはり、時間的拘束が内科、外科系と比べて少なく、子供がいても仕事を続けやすいということは日本でも米国でも同様だと思います。勤務時間が内科、外科系の科と比べて定刻に始まり、終わることが多いのは大きな魅力です。また、夜間、週末の勤務は施設により異なりますが、放射線診断科は概して夜間、週末の負担が少ないといえると思います。最近は遠隔診断も普及していますので、在宅で読影ということも可能です。
画像診断は奥が深く、大変面白い分野です。私が画像診断に携わってきたこの20年間だけでも、画像機器のすばらしい進化があり、また新しい画像診断分野(分子イメージングなど)が広がり、10年前、5年前には画像では見えなかったものが、今は見えるようになったということを実感することが日常の場面でしばしばあります。それが患者さんの診療にどれほど寄与しているかははかり知れません。それだけに、他科からの放射線診断に対する要求水準も高くなり、放射線科が他科から頼りにされているという実感があります。
思えば毎日夢中で過ごすうち、放射線診断を学びはじめてからいつの間にかずいぶん時間がたってしまいましたが、今も日々新たに学ぶことが数多くあります。同じ職場の尊敬する70代の放射線科の先生は、ときどき目を輝かせながら、「今日は、こんなに興味深いCTの症例を見た。こんな症例は今まで見たことがない。」と、わくわくした様子で説明してくれます。私からすれば、この先生が見られたことのないような症例などあるのだろうか、と思うような方なのですが、画像診断が好きであれば、ずっと興味を持って仕事を続けられると思います。医学生、研修医の方で放射線科に興味があり、将来の進路の候補として考えてくださっている方には、自信を持ってお勧めします。
プロフィール(略)
群馬大学医学部卒業、聖路加国際病院内科研修後、埼玉医科大学放射線科。その後米国メリーランド州Johns Hopkins 大学放射線科にて、リサーチフェロー、レジデント、およびクリニカルフェロー(Cross Sectional Imaging)。その後、埼玉医科大学放射線科、大津市民病院放射線科。2001年よりJohns Hopkins 大学放射線科Assistant Professor、2009年Associate Professor、現在に至る。
